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肺がん
概要
肺がんと診断された、もしくは肺がんを疑われた患者さんおよびご家族の方へ
肺がんは症状からは診断が非常に困難な病気です。しかも、一般的には早い段階から転移(てんい:リンパ節や他の身体の臓器へがん細胞が飛び火すること)しやすい特徴があります。そのために、肺がんと診断されたり肺がんを疑われた際には早めに専門の病院への受診をお勧めします。では専門の病院と言っても、どの病院のどの診療科へ受診すればよいのでしょう。私たち町田市民病院には呼吸器内科と呼吸器外科という領域の専門の医師が常勤でおり、肺がんの診断や治療は呼吸器内科と呼吸器外科の合同チームで行っています。どちらの診療科でも診察が可能です、皆様のご病気に対する心配に私たちは真摯に対応いたします。
2020年の厚生労働省動態統計での主な部位別がん死亡数をみると、肺がんは女性で2番目、男性では最も多い死亡者数です。決して珍しい病気ではないのです。
厚生労働省全国がん罹患データ(2018年)より
検査方法
当院への初診~検査
受診時には「今までの経過」「過去に受けているご病気の有無(既往歴といいます)」「現在のお体の健康状態」などを詳しく問診で伺います。もし普段飲んでいるお薬があったら“お薬手帳”をご持参ください。問診や身体所見をふまえて、より詳細な肺がんの診断を得るために精密検査を行います。大まかに分けると精密検査は3つの目的のために行います。
- 肺がんとしての確定診断を得るため:気管支鏡検査、CTガイド下肺生検、喀痰検査、PET(ペット)検査、腫瘍マーカー採血、など
- 肺がんとした場合に、他の臓器へ転移があるかどうかを知るため:脳MRI検査、PET検査、骨シンチグラフィー検査、腹部CT検査、など
- 患者さん個々の全身状態を把握するため:呼吸機能検査、採血検査、尿検査、心電図検査、など
これらの検査の多くは予約が必要な検査となります。またPET検査は他院での検査になります。
検査結果のご説明
検査が終わりましたら、検査結果を外来でご説明します。意外と思われるかもしれませんが、こういった最先端の検査を駆使しても、「100%肺がんです」と言い切れないことが多々あります。がんと断定する診断(確定診断と言います)は顕微鏡レベルでがんの組織を証明して行われます。肺は胸の中に納まった臓器であり、さらに近年は肺の端っこの方にできるがんが増えているためにがんと思われる場所から気管支鏡検査などを行っても、がんの組織が得られないことがあります。そのために、一つの検査ではなく前述した複数の検査を組み合わせて、より精度の高い診断がなされるように努力しています。
治療方法
ガイドラインに基づく治療方針の検討
肺がんの進み具合は患者さん個々で違います。そして、治療方法は肺がんの進み具合に応じて決めていかなければなりません。肺がんの進み具合のことを「ステージ」と呼んでいます。このステージは1~4(I~IV)の数字で示され、世界中どこに行っても共通で用いられる肺がん治療にあたって重要な分類になります。ステージを決定するのには患者さんの症状は関係ない事は知っておくポイントです。ステージを決定づける因子は以下の3つがあります。(1)原発腫瘍:肺がんの大きさや、どこまでがんが広がっているか、など(2)所属リンパ節:肺がんがある場所から徐々に遠くへ向かって、どこまでリンパ節への転移があるか(3)肺や近くのリンパ節を超えて、他の臓器へがんが転移しているか、など。この3つの因子を組み合わせたのが、下の表です。ステージは更に細かく分けるとIA1期からIVB期までに分けられます。そして、肺がんのガイドラインに基づいて治療方針が検討されます。大まかにはステージI期とII期は手術が推奨されます。III期の一部では手術を行うことがありますが、手術のみではなく化学療法や放射線治療の併用も必要となってきます。よってIII期の大部分とIV期では化学療法が主体となります。
T【原発腫瘍】
TX:
原発腫瘍の存在が判定できない,あるいは喀痰または気管支洗浄液細胞診でのみ陽性で画像診断や気管支鏡では観察できないT0:
原発腫瘍を認めないTis:
上皮内がん(carcinoma in situ):肺野型の場合は,充実成分径0 cmかつ病変全体径≦3 cmT1:
腫瘍の充実成分径≦3 cm,肺または臓側胸膜に覆われている,葉気管支より中枢への浸潤が気管支鏡上認められない(すなわち主気管支に及んでいない)T1mi:
微少浸潤性腺がん:部分充実型を示し,充実成分径≦0.5 cmかつ病変全体径≦3 cmT1a:
充実成分径≦1 cmでかつTis・T1miには相当しないT1b:
充実成分径>1 cmでかつ≦2 cmT1c:
充実成分径>2 cmでかつ≦3 cmT2:
充実成分径>3 cmでかつ≦5 cm,または充実成分径≦3 cmでも以下のいずれかであるもの- 主気管支に及ぶが気管分岐部には及ばない
- 臓側胸膜に浸潤
- 肺門まで連続する部分的または一側全体の無気肺か閉塞性肺炎がある
T2a:
充実成分径>3 cmでかつ≦4 cmT2b:
充実成分径>4 cmでかつ≦5 cmT3:
充実成分径>5 cmでかつ≦7 cm,または充実成分径≦5 cmでも以下のいずれかであるもの- 壁側胸膜,胸壁(superior sulcus tumorを含む),横隔神経,心膜のいずれかに直接浸潤
- 同一葉内の不連続な副腫瘍結節
T4:
充実成分径>7 cm,または大きさを問わず横隔膜,縦隔,心臓,大血管,気管,反回神経,食道,椎体,気管分岐部への浸潤,あるいは同側の異なった肺葉内の副腫瘍結節N
【所属リンパ節】
NX:
所属リンパ節評価不能
N0:
所属リンパ節転移なし
N1:
同側の気管支周囲かつ/または同側肺門,肺内リンパ節への転移で原発腫瘍の直接浸潤を含めるN2:
同側縦隔かつ/または気管分岐下リンパ節への転移N3:
対側縦隔,対側肺門,同側あるいは対側の前斜角筋,鎖骨上窩リンパ節への転移M
【遠隔転移】
M0:
遠隔転移なし
M1:
遠隔転移がある
M1a:
対側肺内の副腫瘍結節,胸膜または心膜の結節,悪性胸水(同側・対側),悪性心嚢水+
M1b:
肺以外の一臓器への単発遠隔転移がある
M1c:
肺以外の一臓器または多臓器への多発遠隔転移がある
肺がん取扱い規約第8版.金原出版より引用
最終的な治療方針の決定
ガイドラインに基づいて治療方針を検討していますが、患者さんの全身状態によっては手術の危険性が高いと判断されたり十分な化学療法に耐えられないと判断することもあります。そのため患者さんお一人お一人に最適な治療法をご提示できる様に町田市民病院では呼吸器内科と呼吸器外科が隔週でカンファレンスを行っていす。全ての検査を終えられた患者さんとご家族へは、このカンファレンスの結果に基づいて治療方針をご説明しています。
肺がんの手術療法
・肺がんに対して当院で対応できる手術は多岐にわたります。患者さんにとっては、傷の大きさが最初に気になるところかと思います。当院での肺がんに対する根治術(一般的に肺がんを治すために必要とされる手術)は、1cm前後のキズ4箇所で行う胸腔鏡手術もしくは約8cmのキズと1cmほどのキズを合わせたハイブリッド手術(胸腔鏡と従来の開胸手術、双方のメリットをとりいれた方式)を基本としています。また当院での手術の特徴として、胸を幾重にも取り囲んでいる筋肉をなるべく切らない手術を行っています。
肺がんをより確実に切除するためには、肺がんを含めて周囲の肺を一緒に取る必要があります。肺は切除したら再生しない臓器ですし呼吸をつかさどる臓器であることから、肺を取る量と肺がんの根治性(いかに再発しないように治療するか)の両面から慎重に術式を判断する必要があります。肺を取る量は次に示す術式の順に多くなります。
- 肺部分切除術
- 肺区域切除術
- 肺葉切除術
- 肺全摘術
近年の呼吸器外科領域における世界的なトピックスは、肺がんに対する肺区域切除術です。住所に例えるなら「葉(よう)」は都道府県、「区域(くいき)」は市区町村にあたります。右肺で上中下の3つ、左肺で上下の2つの葉があります。肺の中の血管や気管支の走行によって、葉というブロックはさらに細かい区域に分かれています。肺がんの基本的な手術術式は葉切除ですが、近年の研究によって、ごく早期の肺がんは区域の単位で切除しても十分な治療効果があると分かってきました。そしてCTの普及などによってこのような早期の肺がんが多く発見されるようになってきました。区域切除は根治性を損なわずに、肺を可能な限り温存する術式として注目されています。当院でも適切な症例を選択して積極的に区域切除を行っています。
・2022年度中にはロボット手術による肺がんの手術を当院で開始する予定です。
・どのような術式で手術を行うかは肺がんの状態などや患者さんの全身状態によって判断しており、術前のご説明で詳しくお話ししています。私たちは「より安全」「より確実」「より低侵襲」な手術を心がけています。
肺がんの放射線治療について
・併存症などの影響で手術に耐えられない場合、がんの領域に対する放射線治療を行います。そのほかに骨に転移があり骨折の危険性がある場合や化学療法の効果が乏しい脳に転移がある場合などは放射線治療を行います。また一部の病期についてはがんに対する放射線治療と化学療法を併用いたします。
・当院では放射線治療を行う設備がございませんので、放射線治療の適応がある場合は他の医療機関に紹介し、治療を依頼いたします。多くの場合、治療後も引き続き当院での診療を行います。
肺がんの化学療法(薬物療法)について
・肺がんが肺やリンパ節などに広範囲に広がっていたり、ほかの臓器に転移しており手術療法が行えない場合、肺がんの治療は化学療法が主体となります。病期で言うとIII期のほとんどとIV期ということになります。ここで強調したいのは、『IV期が必ずしもがん末期ではない。』ということです。ご本人の体力(パフォーマンスステータス)やがんのタイプ、ご家族などの療養環境の状況を総合的に評価し、総力を結集して治療・療養を行います。
・肺がんの化学療法はここ数十年で大幅に進歩しております。以前はがんの細胞を破壊する薬物、いわゆる抗がん剤の治療のみでしたが、2000年代初頭にイレッサ🄬というこれまでの抗がん剤とは異なる機序でがんの治療を行う薬剤が出現しました。その後、イレッサ🄬が効く患者さんはEGFRという体内の細胞構造を作るための遺伝子(設計図)に変異があるということがわかり、変異がない患者さんはイレッサ🄬の効果が乏しいこともわかりました。これ以降、様々なタイプの遺伝子変異が見つかり、それに対する治療薬が出現しました。
・さらにノーベル賞受賞となったオプジーボ🄬などの免疫チェックポイント阻害薬が2010年代後半に使用することができるようになりました。この免疫チェックポイント阻害薬はがんの細胞を破壊する抗がん剤やイレッサ🄬など遺伝子変異を持っているがん細胞に直接作用する薬剤ではなく、免疫系の細胞により体内がもともと持っているがん細胞を駆逐する機能を向上させる薬剤です。この薬剤はがん細胞がPD-L1というタンパクを産生している割合が多い場合、特に効果的です。下記に主な免疫チェックポイント阻害薬を紹介します。
テセントリク🄬、イミフィンジ🄬:PD-L1阻害薬
ヤーボイ🄬:CTLA-4阻害薬
・薬物治療が多岐にわたるようになったため、がんの診断時に自分がどのタイプのがんであるか評価する必要があります。肺がんの分類については下記の通りです。
組織型
- 小細胞がん(肺がん全体のだいたい10%)
- 非小細胞がん
腺がん(肺がん全体のだいたい50%前後)
扁平上皮癌(肺がん全体のだいたい30%前後)
大細胞がん(肺がん全体のだいたい10%前後) - その他
- EGFR遺伝子変異 →イレッサ🄬、タルセバ🄬、ジオトリフ🄬、タグリッソ🄬
- ALK融合遺伝子 →ザーコリ🄬、アレセンサ🄬
- ROS-1融合遺伝子 →ザーコリ🄬
※そのほか、BRAF遺伝子、NTRK融合遺伝子、MET遺伝子変異、RET融合遺伝子などの遺伝子変異検査があります。現在は多数の遺伝子変異を一度にチェックする検査(オンコマイン🄬、AmoyDx®)があります。
・肺がんの薬物療法は化学療法だけではありません。抗がん剤の主な副作用である吐き気に対する吐き気止めなど、がんの治療による副作用を和らげる薬剤やがんの痛みなどの諸症状に対する鎮痛剤などによる緩和治療もがんに対する立派な治療です。当院では合併症や体力がないなどの理由で化学療法が行えない場合でも患者さんの状況に応じた治療を検討いたします。
参考資料
出典:https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/Performance_Status.html
0. 全く問題なく活動できる。発病前と同じ日常生活が制限なく行える。
1. 肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる。
例:軽い家事、事務作業
2. 歩行可能で自分の身の回りのことはすべて可能だが作業はできない。
日中の50%以上はベッド外で過ごす。
3. 限られた自分の身の回りのことしかできない。 日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。
4. 全く動けない。自分の身の回りのことは全くできない。 完全にベッドか椅子で過ごす。
☆もっと治療等が知りたい方へ
日本肺癌学会のホームページで肺癌診療ガイドラインが公表されています。診療でわからないことがありましたら、当院の呼吸器内科・外科スタッフにご相談くださいませ。