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ドクターが教える!病気あれこれ

狭心症・心筋梗塞

狭心症、心筋梗塞とは?

 心臓は、1分間に60〜80回、寿命を約80年としたら一生の間に30億から40億回以上、休むことなく収縮と弛緩を繰り返します。弛緩することにより血液を心臓に溜め込み、収縮して溜め込んだ血液を全身へ送りだします。この非常にタフな臓器を維持するためには、常に豊富な血液が送り込まれ、酸素と栄養分が与えられます。その血液のパイプ役をしているのが、《冠動脈》と呼ばれる心臓の動脈です。狭心症とは、この冠動脈の壁が動脈硬化のために内側に向けて厚くなり、血液の通り道が狭くなる病気です。75%以上血液の通り道が詰まってくると、顕著に血流量が低下してきます。運動時など心臓でたくさん血液が必要とされる状況では、供給される血液が足りなくなり、胸痛などの症状がその警笛として発せられます。狭心症では、心臓の筋肉はまだ死んでおらず、心臓の機能は可逆的であります。心筋梗塞では、冠動脈が完全に閉塞してしまい、閉塞した先の心臓の筋肉に血液がながれなくなります。心筋は死んでしまい、その後に大きな心臓の機能障害をもたらします。

冠動脈の解剖

冠動脈の解剖

 冠動脈は大きく分けて3本あります。左側の冠動脈はまず1本の動脈(左主幹部)として大動脈から分岐し、左前下行枝と左回旋枝の2本に枝分かれします。右は右冠動脈があります。そのため、一般的に右冠動脈、左前下行枝、左回旋枝の3本に分けられます(図1-1)。この3本からさらに枝が分かれます。 左前下行枝は、心臓機能(血液を押し出すポンプ機能)にとって非常に重要な役割を果たします。この血管1本の急性閉塞だけでも死に至ることがあります。また大きな心筋梗塞を起こすと、将来的にも虚血性心筋症と最近呼ばれるようになった重症の病態(心拡大、心機能障害、心室瘤、僧帽弁閉鎖不全症などが同時に合併)に移行することもあります。右冠動脈の病気では、徐脈(脈が遅くなり意識消失が起きる)、致死的不整脈(心室細動:血圧がでなくなり突然死を起こす)を誘発する可能性があります。左回旋枝が心筋梗塞を起こした場合、急性死亡に至ることは少ないですが、将来的に心機能低下や僧帽弁機能障害を招きやすくなります。左主幹部で病気が発生すると、左前下行枝と左回旋枝の2本がいっぺんに障害を受けるため、突然死の原因となりえます。

狭心症

狭心症

 胸痛、前胸部を締め付けられる感じ、もやもや感などの狭心症の症状は、心臓の筋肉に血流が足りなくなっていることを教えてくれる重要な警笛であります。動脈硬化のため冠動脈の壁が内側に向けて厚くなり、血液の通り道が狭くなると、血液の供給が減少します。体を動かしたり、感情が高ぶったりして脈が速くなると(需要が増加)、血液の供給が需要に追いつかなくなり(需要>供給)狭心症状が発生します。心臓を休ませると血液の需要が減り、症状は消失します(図1-2)。

急性心筋梗塞とは違い、冠動脈がゆっくりと狭くなって閉塞した場合、周囲にある毛細血管が自然と発達して、不十分ながら閉塞した血管へ血液を送り込むようになることがあります(側副血行路)。この場合、冠動脈が閉塞してしまってもこの側副血行路から廻ってくる血流のおかげで心筋梗塞にはならずに済みますが、十分な血液が供給されているわけではないため狭心症の原因となりえます。また、側副血行路を作っている血管まで狭くなり始めると、今度は非常に大きな範囲で一度に心筋梗塞を起こす危険が出てきます。

急性心筋梗塞

 急性心筋梗塞とは、多くは動脈硬化により狭くなった血管に急速に血栓が形成され冠動脈が完全に閉塞することに起因します(急性冠症候群)(図1-2)。心臓の筋肉への血流が突然ストップしてしまうため、心筋が死んでしまいます。早期に血流を再開できないと、大きな範囲で心筋に障害が起き、心臓のポンプ機能が低下し、心不全になってしまいます。心臓の筋肉は再生されないため、一度心筋梗塞になると、その後ずっと障害が残ったまま生きていかなくてはなりません。

陳旧性心筋梗塞

 心筋梗塞後の慢性期になると、障害を受けた大きさに合わせて心臓のポンプ機能が低下し、日常生活の活動性、余力を低下させます。つまり、運動などで心臓に負担がかかるとすぐに疲れてしまう、息切れがしてしまうなど、心不全の症状があらわれるようになります。また、心筋梗塞が起こった場所では、まれに心臓の壁が瘤のように膨らんでしまうことがあります(心室瘤)。これにより、心不全傾向に陥ることがあります。また、心室瘤にならなくても、心臓が拡張して(心拡大)、僧帽弁の機能不全(閉鎖不全症)に陥り、心不全に拍車をかけ重症心不全になることもあります。このような病態は虚血性心筋症と最近は呼ばれており、難治性の病態として治療方法が盛んに検討されております。

狭心症、心筋梗塞に対する一般的な治療法

内服治療

 通常、狭心症に対する内服治療は、血管拡張剤(血液供給量を増やす)、βブロッカー(血液の需要を減らす)、血栓予防(抗血小板剤)、病態進行抑制(糖尿病治療強化、高脂血症治療強化、食事療法など)が基本となります。症状の抑制効果はありますが、冠動脈の形態の変化が残ったままであるため、治療効果には限界がありますが、内服薬の発展に伴いその効果は非常に大きくなっております。最近では動脈硬化性病変の退縮効果(冠動脈狭窄度の改善効果)も期待されております。

血管内治療(カテーテル治療)

急性心筋梗塞

 狭心症、心筋梗塞の確定診断をするためには、冠動脈造影検査が必要となります。カテーテル治療は、この冠動脈造影検査の延長として治療を行えるという利点があります。
カテーテル治療は、狭くなった部位を特殊な風船で広げ、血流を改善させる治療です。血管を広げた後にステントという金属の筒を入れて、再び血管が狭くならないようにします。従来のステントは、狭心症の再発が多く、治療成績は十分満足できるものではありませんでした。しかし、最近になり、薬剤溶出型ステント(DES)が登場し、従来のステントの問題点を解決できるようになりました。このステントには、特殊な薬が塗られており、ゆっくりとその薬が溶け出し、早期再狭窄を抑えます(図1-3)。このステントにより、多くの患者がカテーテル治療だけで、長く狭心症が再発しないまま過ごせるようになりました。
カテーテル治療の最大の利点は、患者の体に対する侵襲が少ないという点です。そして造影検査の延長として治療が可能であるため、急性心筋梗塞のときは、造影検査で責任病変を確認し、そのまま治療へと移行できます。急性心筋梗塞の場合、できるだけ早く心臓へ血液が流れるようにして心臓の機能をできる限り維持させることが治療効果を上げる重要な点となるため、カテーテル治療の本領が一番発揮できることになります。
薬剤溶出型冠動脈ステントの登場は、センセーショナルでありましたが、カテーテル治療の手技的問題が改善したわけではなく、バイパス手術の方が安全と判断される症例がまだまだ多くあります。冠動脈バイパス手術のリスクは予定手術では1%以下で、カテーテル治療と同じぐらいのリスクになります。また、冠動脈バイパス術のほうが依然として長期成績は良いため、10年後のことを考えて治療選択が必要となる場合(50~70歳台の患者など)では、カテーテル治療と外科手術とどちらが良いかをよく考えて治療選択をする必要があります。

一般的な外科的治療

血管内治療(カテーテル治療)

 外科的治療では、狭くなった場所の先に新しい血流路を作って血流を良くします。交通渋滞のある交差点に新たにバイパス路を設けるのと同じ考え方です。そのため、狭心症、心筋梗塞にする外科手術は、冠動脈バイパス術(CABG)(図1-4)と呼ばれています。左前下行枝、左主幹部に病変のある狭心症、3本の冠動脈がすべて狭くなっている場合などで外科手術が適応と判断されます。外科治療の利点は、病変がたくさんあったとしても、一回の手術ですべて治療するという点です。長期的な成績もカテーテル治療より優れています。欠点は、カテーテルに比べれば体に加わる侵襲が大きいという点ですが、今では手術から1〜2週間前後で退院することが可能となっています。

人工心肺装置

一般的な外科的治療

人工心肺装置

 通常、心臓外科手術は、人工心肺装置(図1-5)という心臓と肺の代わりをしてくれる機械を体に装着し、全身の循環をこの装置にゆだね、特殊な薬で心臓を停止させて手術を行います。通常、冠動脈バイパス手術はこの装置を用いて冠動脈にバイパス血管を縫い付けております。この機械を使って手術を行う利点として、冠動脈の視野が良好で、確実に吻合操作ができる点にあります。しかし、心臓大血管手術により患者に加わる侵襲や周術期の合併症の多くが人工心肺装置を使うことに由来しております(図1-6)。50〜60才台で、全身状態の良い患者では、人工心肺装置を使用することで発生するリスクは非常に低いため、ほとんど問題になりませんが、高齢者、重症の動脈硬化性病変、腎不全を持つ患者の場合は、人工心肺装置を使用することで合併症が発生する確率は非常に高くなります。

人工心肺非使用心拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)

 この10年の医療技術の発達により、人工心肺装置を使わないで冠動脈バイパス手術を行うことが可能となりました。この手術では、人工心肺装置を使用することに由来する合併症がなくなるため、輸血率、輸血量の減少、脳合併症の減少、腎機能保持、不整脈発生率低下などの利点があります。そのため、高齢者や重症患者も、安心して冠動脈バイパス手術を受けてもらえるようになりました。しかし、通常の冠動脈バイパス術に比べて、外科医にも麻酔科医にも高度な技術が必要で精神的ストレスがかかるため、いまだに多くの病院で人工心肺装置を使っての冠動脈バイパス手術を行っております。

バイパスに使用する血管

人工心肺装置の利点・欠点

 冠動脈バイパス術では、バイパスに使用する血管(バイパスグラフト)が重要となります。内胸動脈という前胸部の胸壁の裏側にある血管は、左前下行枝に対するバイパスとして使われ、非常に長持ちすることがすでに証明されております。これは、薬剤溶出型ステントであってもこの治療成績を凌駕することは出来ません。 そのほかには、足の静脈(大伏在静脈)、手の血管(橈骨動脈)と胃の血管(右胃大網動脈)が冠動脈バイパス術で使用可能です。大伏在静脈は、確実に豊富な血液を心臓に流す、すばやく採取できる、という他のどの血管にも負けない特性があるため、現在でも多用され、冠動脈バイパス術での大切な役割を果たしております(図1-7)。動脈にバイパスするのだから、動脈を使用したほうが静脈より相性が良く長期的に見てもいいという考えから、比較的若年の患者には橈骨動脈、右胃大網動脈もよく使用されます。

c)当院での狭心症、心筋梗塞に対する治療方針

 当院では、予定手術では人工心肺装置を使用せずに心拍動下に行う冠動脈バイパス術(オフポンプバイパス、OPCAB)を基本方針としております。そのため、80歳を超える高齢者、腎機能が低下している方など、従来のCABGでハイリスク症例に当たる患者にも安全に冠動脈バイパス術を受けていただけます。
バイパスに使用する血管は、前述した通りのさまざまな背景、バイパス血管の寿命があるため、当病院では、60歳台、70歳台の患者で落ち着いた状態で手術を行える場合には、動脈グラフト(左右内胸動脈、右胃大網動脈、橈骨動脈)を多用して高い長期開存を目指し、手術後10年、20年狭心症で悩むことなく生活できることを目指しています。80歳を超える症例では、内胸動脈と大伏在静脈を使用し、人工心肺装置を使用せずに冠動脈バイパス術を行い、手術侵襲をできる限り小さくして早い回復を目指します。緊急バイパス手術の場合は、大伏在静脈を使用してできるだけ早く心筋への血流を再開し、心臓機能の早期回復、心筋梗塞の範囲をできるだけ狭くすることを目指します。
OPCAB手術の欠点として、細い冠動脈へのバイパスの開存率が低下する、あるいは、細い冠動脈へのバイパスをはじめから断念するためバイパス本数が少なくなる、ということが言われており、信頼の高い医学雑誌でも最近指摘されました。バイパス数が少なくなったとしても、高齢の患者では、予後、再入院率、心事故発生率などに影響はないと思われますが、50歳〜60歳台では、長期的な視野で見ると再発率、心事故発生率に差が出てくると思われます。この年代の方は、人工心肺装置のリスクは低いと思われますので、心臓の状態をできるだけ良くすることを優先した手術方法を選択します。OPCAB手術では対応が難しい血管がある場合では、通常の人工心肺装置を使用し、バイパス本数を減らしたりするようなことがないようにしております。
心筋梗塞後の合併症として発生する心室瘤や虚血性心筋症と呼ばれる重症心不全へと移行した状態には、冠動脈バイパス術だけでは症状の改善、生命予後の改善は得られないため、当院では積極的に左室形成術、僧帽弁形成術を合わせて行っており、良好な治療成績が得られております。

»手術成績は、手術実績をご参照ください。