町田市民病院 HOME > ドクターが教える!病気あれこれ > 急性大動脈解離
急性大動脈解離
急性大動脈解離 |
急性大動脈解離とは?
急性大動脈解離という疾患は、ほとんどの場合、高血圧症を基礎に持つ患者に突如発生する大動脈の恐ろしい病気です。大動脈の内側に亀裂が入り、その裂け目から血液が大動脈の壁を裂いて壁内に流れ込む(1枚の大動脈壁の中に血液が裂け入って、壁を内側と外側の2枚の薄い膜に分離してしまう)病気です(図4-1)。ちょうどケーキのバウムクーヘンが薄く剥がれるように大動脈の壁が分離してしまうのです。そのため、薄い外側の膜は、高い血圧には耐え切れず、破裂したり、血液が染み出してきたりして悪さをします(図4-2)。また、解離が発生して本来在るべきではない空間(偽腔:外膜と内膜ではさまれている空間)が大きくなると、大動脈から分岐する動脈の本来の血液の通り道(真腔)を圧迫して、臓器血流障害を発生させます。そのため、脳梗塞、消化管壊死、下肢血流障害などが発生することがあります。
心臓から出る上行大動脈で大動脈解離が発生した場合、保存的治療では非常に高い確率で急性期に死亡されてしまいます。解離を起こした上行大動脈から血液が染み出し、心臓を包む心膜内に血液が貯留し、心臓を圧迫して血圧が出なくなったり(心タンポナーデ)、心臓の出口にある大動脈弁まで解離が進んで弁の構造を破壊し、急性大動脈弁閉鎖不全から急性心不全に陥ることが主たる死亡原因であります(図4-3)。また、冠動脈を圧迫、損傷し、急性心筋梗塞を起こしたり、脳へ行く動脈まで広がり、内腔が狭くなり血流障害を引き起こし広範囲の脳梗塞を引き起こします(図4-4,5)。この状態を放置しておくと、発症後15分で20%弱、24時間で40%弱、1週間以内に70%以上の患者が死にいたると言われています。このように上行大動脈に解離が発生したタイプをStanford A型解離と呼びます。A型急性解離の場合は、上記のように、急性期死亡が非常に高いため、緊急手術が必要となります。
これに対し、上行大動脈に大動脈解離が及んでいないもの(下行大動脈以下の解離)をStanford B型解離と呼びます。B型解離は、A型と違い、急性期に血圧を下げて安静にすることで、急性期死亡率は非常に低くなるために、一般的には手術をせずに降圧安静療法が第一選択となります。時に、破裂したり、消化管に流れ込む動脈が解離のために閉塞したり、足の動脈が閉塞したりして緊急手術が必要になることもあるため、油断はできません。
A型解離で緊急手術することは、B型解離の形へ移行することであり、急性期死亡率を下げることにつながります。
急性大動脈解離に対する当院での治療方針
A型解離(上行大動脈に解離が及んでいる)での緊急手術では、裂け目のできた部位の大動脈を人工血管で置換することです。上行大動脈に裂け目がある場合は、上行大動脈を人工血管で置換します。弓部大動脈に裂け目ができてA型解離となった場合、脳血流障害が発生する可能性の高い場合は、は上行弓部大動脈を置換します。救命を第一優先としなくてはない場合(高齢者など)は上行大動脈のみの置換で終わらせます。上行弓部大動脈置換まで行うと手術侵襲が大きくなりすぎる場合があるためです。(図4-6)。これらの対応により、急性期死亡率を著明に減少させることが可能です。上行大動脈置換術後は降圧療法を行い、下行大動脈以下が解離性大動脈瘤に発展しないように努めます。ステント付人工血管を使用した一期的上行弓部下行大動脈置換を行うことも行っています。これにより下行大動脈以下の部位での解離性大動脈瘤への発展が抑えられる可能性があります。
手術法などは大動脈瘤の項目を見てください。 B型解離は基本的には降圧保存的治療を行います。