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季刊「まちだ市民病院クォータリー」

【当院のがん治療②】産婦人科 遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)


産婦人科部長/医師 長尾 充

がんと遺伝

がんは様々な要因によって発生すると言われていますが、大きく分けて「環境要因」と「遺伝要因」が関わっています。「環境要因」は、主に喫煙と感染で、その他に飲酒、食物・栄養、身体活動、体格、化学物質、生殖要因やホルモンなどがあります。
そして「遺伝要因」とは生まれ持った「遺伝子の変化」が、がんの発症と強く関わっていることです。遺伝性のがん(遺伝性腫瘍)は、もともと持っている遺伝子の変化が、下の世代に受け継がれることがあるため起こります。この遺伝性のがんの一つが遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)です。

家系図のイラスト。女の子が「がんは遺伝するの?」「もしかしてうちはがん家系?」と心配している。

遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)とは

HBOCは、DNAが傷ついたときに正常に修復する働きのあるBRCA1遺伝子かBRCA2遺伝子のどちらかに変異がある遺伝性のがんの一種です。HBOCの人は、変異のない人より若い年代で、女性の場合は乳がん、卵巣・卵管がん、男性の場合は前立腺がんや男性乳がんなどを発症しやすくなります。日本人女性が一生涯に乳がんになる確率は9%ですが、BRCA1遺伝子に変異がある場合には46%から87%、BRCA2遺伝子変異では38%から84%と高確率です。卵巣がんの生涯罹患率は一般的には1%ですが、BRCA1遺伝子変異があると39%から63%、BRCA2遺伝子変異があると16.5%から27%と言われています。

遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)の遺伝子検査

BRCA遺伝子の変異を調べるには、血液検査による遺伝子検査が必要になります。下記に記載の対象者のような条件を満たす、乳がんや卵巣がんなどの患者がHBOCの診断のために受ける検査には、健康保険が使えるようになりました。
遺伝学的検査は、当院でも調べることができます。これらの情報を知り遺伝性腫瘍の体質があるかどうかを知るということは、適切な健康管理や定期的な検査によって、ご自身やご家族のがん予防・早期発見、手術や抗がん剤などの治療の選択の手立てとなります。
しかし一方で、ご自身のがんのなりやすさや、ご家族への遺伝の可能性を知ることとなるため、精神的負担になることもあります。

遺伝子検査の保険適用の対象者

  1. 45歳以下で乳がん発症
  2. 60歳以下でトリプルネガティブ乳がん*1発症
  3. 2個以上の原発性乳がん発症
  4. ご本人が乳がんを発症していて、かつ第3度近親者*2内に乳がんまたは卵巣がん発症者が1名以上いる
  5. 乳がんと診断された男性
  6. 腫瘍組織によるがん遺伝子パネル検査の結果、BRCA遺伝子の病的な変化をもっている可能性があると診断された方
  7. ご本人が乳がんを発症していて、かつ家系内でBRCA遺伝子に病的な変化が認められている方
  8. 卵巣がん、卵管がん、腹膜がんのいずれかを発症
*1:トリプルネガティブ乳がん
がん細胞の表面に、ホルモン受容体である エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体、そしてHER2(ハーツー)タンパクの3つがいずれも存在しないタイプの乳がん。
*2:第3度近親者
 曾祖父母、大おじ、大おば、いとこなど(遺伝情報を12.5%共有する関係)

DNA、遺伝子のイメージ画像

HBOCとわかった場合の対応

得られた検査結果をもとに、がんの早期発見に必要な検診や検査、あるいはがんになるリスクを減らすための医療を、ご自身だけではなく、ご家族についても考えることができます。特に卵巣・卵管がんは進行が早く、進行がんで見つかることが少なくありません。HBOCと分かったら半年に1回は診察を受け、挙児希望の方はお子さんを生み終えた後に、卵巣・卵管の予防切除を受けるかどうか検討することが推奨されます。

また、乳がんか卵巣がんを発症している人でHBOCと診断された人が、まだ病気になっていない乳房や卵巣・卵管を、がんを予防する目的で切除する「リスク低減手術」があります。遺伝カウンセリングを受けたうえで、健康な側の乳房も予防切除したり、卵巣がんの発症を防ぐために卵巣・卵管の予防切除を受けたりする場合などに健康保険が適用されるようになり、自己負担が大幅に軽減されました。

当院では外来遺伝相談、遺伝子検査、予防的手術の保険適用の施設認定を受けています。これまでも遺伝学的検査やリスク低減卵管卵巣切除を負担の少ない腹腔鏡で行っており、満足のいく結果を得ております。遺伝子検査の条件に当てはまる方や心配な方は、まず当院の産婦人科遺伝相談にご相談ください。

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