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季刊「まちだ市民病院クォータリー」

【当院のがん治療①】外科 胃がん治療


外科部長/医師 保谷 芳行

はじめに

医学・医療は限りなく進歩しており、外科分野では手術侵襲(ダメージ)の軽減化と機能温存術に向かっています。一方、がん治療においては、外科的手術だけではなく、化学療法、放射線療法、免疫学的療法など集学的治療が必要であり、患者さまに「より良い医療を効率的に提供する」ために、多職種でチーム診療を行っています。

外科診療の特徴

  1. 外科は幅広い疾患を扱っているため、消化器外科医、呼吸器外科医、乳腺外科医、小児外科医を配置して専門性の高い治療を行っています。
  2. 手術に際しては、外科医のほかに放射線科医、病理医、麻酔科医、手術室看護師で合同カンファレンスを行い、方針を確認・決定しています。
  3. 病気の進行度や患者の状態によっては、手術のダメージを軽減する目的で内視鏡治療を積極的に導入し、早期の社会復帰を目指しています。
  4. 最近の抗がん剤の進歩により、抗がん剤と手術を組み合わせた集学的癌治療をチーム医療で実践しています。
  5. 特殊な疾患や専門性が高い治療法に関しては、大学病院と連携できる体制をとっています。

外科スタッフ集合写真

胃がん治療について

内視鏡的胃粘膜下層剥離術(ESD)

胃粘膜内癌に対して、消化器内科医が中心となり、内視鏡的胃粘膜下層剥離術を行っています。外科的手術と比較すると、身体に優しい治療となっています。

1. マーキング

マーキングのイメージイラスト

内視鏡を胃の中に入れ、病変の周辺に切り取る範囲の目印をつける。

2. 局注

局注のイメージイラスト

粘膜下層に薬剤を注入して浮かせた状態にする。

3. 切開

切開のイメージイラスト

粘膜下層に薬剤を注入して浮かせた状態にする。

4. 粘膜下層の剥離(はくり)

粘膜下層の剥離のイメージイラスト

専用ナイフで病変を少しずつ慎重にはぎとる。

5. 切除完了

切除完了のイメージイラスト

ナイフを使って最後まで剥離する、または最後にスネアで切り取る。

6. 止血

止血のイメージイラスト

切り取ったあとの胃の表面に止血処置を施し、切り取った病変部は病理検査に出すため回収する。

7. 病理検査

病理検査のイメージイラスト

切り取った病変は顕微鏡による組織検査をし、根治しているかどうかの判断をする。

胃切除術、胃全摘術

胃癌の進行度にあわせた適正手術を基本とし、胃切除後障害の一つである残胃炎およびダンピング症状(めまい、動悸、発汗、頭痛、手指の震えなど)を軽減する吻合法や神経温存、幽門保存などの機能温存手術を行っています。

胃癌の進行度にあわせた治療法

N0
リンパ節移転がない
N1
胃に転移したリンパ節に転移がある
N2
胃を養う血管に沿ったリンパ節に転移がある
N3
さらに遠くのリンパ節に転移がある
T1,M
胃の粘膜に限局している
ⅠA
分化型で2cm以下(潰瘍なし)なら内視鏡で粘膜切除、それ以外は縮小した胃切除術(リンパ節郭清一部省略、神経、胃の出口、大網などを残す)
ⅠB
2cm以下なら、縮小した胃切除術(リンパ節郭清一部省略、神経、胃の出口、大網などを残す)それ以外は普通の胃切除術

普通の胃切除術

拡大手術
緩和手術
(姑息手術:がんによる症状を改善する手術)
化学療法
放射線療法
緩和医療
T1,SM
胃の粘膜下層に達している
ⅠA
縮小した胃切除術(リンパ節郭清一部省略、神経、胃の出口、大網などを残す)
ⅠB
2cm以下なら、縮小した胃切除術(リンパ節郭清一部省略、神経、胃の出口、大網などを残す)それ以外は普通の胃切除術

普通の胃切除術
T2
胃の表面にがんが出ていない、筋層あるいは漿膜下層まで
ⅠB
普通の胃切除術

普通の胃切除術
ⅢA
普通の胃切除術
T3
漿膜を超えて胃の表面に出ている

普通の胃切除術
ⅢA
普通の胃切除術
ⅢB
普通の胃切除術
T4
胃の表面に出た上に、他の臓器にもがんが続いている
ⅢA
拡大手術(胃以外の臓器も切除)
ⅢB
拡大手術(胃以外の臓器も切除)
肝、肺、腹膜など遠くに転移している

残胃炎およびダンピング症状を軽減する吻合法

残胃炎およびダンピング症状を軽減する吻合法のイメージイラスト

幽門保存胃切除術(PPG:pylorus preserving gastrectomy)

幽門保存胃切除術のイメージイラスト

出典:「胃がん治療ガイドラインの解説」より

胃の出口に相当する幽門部を一部残すことにより、ダンピング症候群や十二指腸液の胃内逆流を防ぐことを目的としています。その他、胃に付着している大網を残し、癒着を軽減させ腸閉塞を予防します。また、胃周囲の迷走神経を温存することにより、下痢や胆石症の発症頻度を低くします。

術前化学療法、放射線療法

腫瘍を小さくしてから手術を行うことが望ましい患者さまに対しては、まず化学療法を行い、その効果を見てから手術を行っています。
また、限られた条件下ではありますが、近隣の放射線治療施設と協力して、局所放射線療法を行っています。切除困難症例に対する放射線化学療法では、病巣が消失したと考えられる症例※6も経験しています。

放射線化学療法の有効例

放射線化学療法の有効例の写真

左:胃噴門部小弯側に2/3周性のType2病変
右:腫瘍は平坦化し、びらんを認めるのみ

胃切除術後健康外来(Gastrointestinal health clinic)

患者さまのご要望にお応えして、「胃切除術後障害、胃の健康相談」を積極的に行っています。胃の手術後、何らかの不定愁訴(明確な原因は不明だが、体調が悪い状態)でお悩みの方は意外と多く、また胃の健康状態に不安をお持ちの方も増えてきています。胃切除術後の病状として、小胃症状、貧血、乳糖不耐症、骨代謝障害、糖代謝異常、ダンピング症状、胆石症、逆流性食道炎、残胃炎、便通異常および腸閉塞などがありますが、外来受診をしていただくことで、症状軽減の助けになればと考えています。従来の治療に加え、漢方及び補完代替療法に関してのご相談も受け付けていますので、他医療機関で手術をされた方もかかりつけ医でご相談いただき、紹介状をお持ちの上でご来院ください。

小胃症状

胃切除後に胃が小さくなることで起こる全ての症状のことです。食事が少ししか入らない、すぐに満腹になってしまうなどの症状があります。

ダンピング症状

食物が急に腸へ流れ込むことで起こる症状で、食後30分以内に起こる早期ダンピング症状と食後2時間から3時間で起こる後期ダンピング症状に分けられます。早期ダンピング症状には、動悸や冷汗、全身倦怠感などの全身症状と腹部膨満、吐き気、嘔吐などの腹部症状があります。後期ダンピング症状には、頭痛や倦怠感、冷汗、めまいなどがあります。